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長野地方裁判所 昭和62年(行ウ)8号 判決

長野市青木島三丁目九番地一〇

原告

富士工機株式会社

右代理者代表取締役

藤形禎一

右訴訟代理人弁護士

田中善助

長野市西後町六〇八番地二

被告

長野税務署長

湯澤敏夫

被告指定代理人

林菜つみ

和栗正栄

松岡敬八郎

河原宏

小林勝

渡辺康雄

川田茂

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が、昭和五九年一一月三〇日付けでした、原告の昭和五六年一一月一日から昭和五七年一〇月三一日までの事業年度(以下「昭和五七年一〇月期」という。)の法人税の更正処分のうち、修正申告の所得金額零円を越える部分(ただし、異議決定により一部取消後のもの)を取り消す。

2  被告が、昭和六〇年五月一〇日付けでした、原告の昭和五七年一一月一日から昭和五八年一〇月三一日までの事業年度(以下「昭和五八年一〇月期」という。)の法人税の再更正処分(以下、昭和五七年度一〇月期の法人税の一部取消後の更正処分と併せて「本件各更正処分」という。)のうち修正申告の所得金額零円を越える部分を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  原告・請求原因

1  原告は、電気機器等の販売を業とする株式会社であり、本件各更正処分の経緯は別紙一のとおりである。

2  原告は、法人税の申告をなすにあたり、別紙二「減算項目 売上原価(過大計上期末在庫)」欄記載のとおり、昭和五三年一一月一日から昭和五四年一〇月三一日までの事業年度(以下「昭和五四年一〇月期」という。)から、過大な期末在庫を計上して確定申告をしてきたが、本件各更正処分には、原告の右在庫の過大計上を考慮することなく行われた違法がある。

3  よつて、原告は、被告に対し、本件各更正処分の取り消しを求める。

二  被告・認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、過大計上が昭和五四年一〇月期から行われたものであることは否認し、その余は認め、違法との主張は争う。

三  被告・抗弁

1  昭和五七年一〇月期分の所得金額について

(一) 原告の当期における所得金額は、次表のとおり一四五万七四九八円である。

〈省略〉

(二) 右表の各項目の内容は、次のとおりである。

(1) 確定申告書に係る所得金額 〇円

原告が被告に提出した昭和五七年一〇月期の法人税確定申告書に記載されている所得金額である。

(2) 修正申告書に係る所得金額 〇円

原告が被告に提出した昭和五七年一〇月期の法人税修正申告書に記載されている所得金額である。

(3) 売上原価の額 五四〇〇万円

原告が昭和五七年一〇月期の確定申告書の添付書類である損益計算書において、売上原価の額に算入した期首商品棚卸高の金額には、事実を仮装して経理したところに基づく過大計上額五四〇〇万円が含まれていた。

ところで、所得金額の計算上、損金の額に算入される売上原価の額は、次の式により算出される。

期首商品棚卸高+当期仕入高-期末商品棚卸高=売上原価

しかるに、原告は、期首商品棚卸高を過大計上することによつて売上原価の額を過大に計上処理することにしていたので、これを真実の期首商品棚卸高に従つて真実の売上原価の額を算出すると、過大計上していた期首商品棚卸高に相当する金額が売上原価を過大に計上していたことになる。

そこで、被告は、右過大計上額五四〇〇万円の損金算入を否認し、これを所得金額に加算した。

(4) 本件土地の譲渡収益の額 四五〇〇万円

原告が訴外名精運輸株式会社に売却した土地(塩尻市大字広丘吉田字道東三四〇番一二の宅地、六三六・二四平方メートル)は、昭和五七年一〇月期内の昭和五六年一二月一六日にその引渡しが完了したことから、被告は、右土地の譲渡収益の額四五〇〇万円を同期の益金の額に算入し、所得金額に加算した。

(5) 仮受金

原告が昭和五七年一〇月期の期中においていつたん計上した前記土地の譲渡収益の額を、昭和五七年一〇月三〇日付けの仕訳によつて取り消した際、貸方「未収金一〇万円」とすべきところ、仕訳けを誤つて「仮受金一〇万円」として負債科目に計上していたことから、被告は、誤つた計上処理を是正するため、これを所得金額に加算したものである。なお単に仕訳誤りにより生じたものであるため同額を後記の(10)において減算した。

(6) 繰越欠損金額の控除額 二五九五万九八八五円

昭和五七年一〇月期の所得金額の計算上、損金の額に算入される正当な繰越欠損金額の当期控除額は後記(11)のとおり、所得金額から減算したので、原告が昭和五七年一〇月期の修正申告書において控除した繰越欠損金額の控除額を、所得金額に加算した。

(7) 加算計 一億二五〇五万九八八五円

右(3)ないし(6)の合計額である。

(8) 売上原価の額 四〇〇五万三〇〇〇円

原告が昭和五七年一〇月期の確定申告書の添付書類である損益計算書において計上した期末商品棚卸高の金額には、事実を仮装して経理したところに基づく過大計上額四〇〇五万三〇〇〇円が含まれていた。

したがつて、前記(3)の式によれば、原告が経理した右過大計上額を含む期末商品棚卸高を、真実の期末商品棚卸高に従つて真実の売上原価の額を算出すると、右過大計上額に相当する額だけ増加することとなる。

そこで、被告は、右過大計上額四〇〇五万三〇〇〇円を売上原価の額として損金の額に算入し、所得金額から減算した。

(9) 前記土地の譲渡原価の額 一一一二万四七七五円

前記(4)で述べたとおり、前記土地の譲渡収益は昭和五七年一〇月期に帰属するので、次表の計算に基づき、右譲渡収益に対応する譲渡原価の額一一一二万四七七五円を損金の額に算入し、所得金額から減算した。

〈省略〉

(10) 未収入金

前記(5)で述べたとおり、一〇万円を損金の額に算入したものである。

(11) 繰越欠損金額の当期控除額 七二三二万四六一二円

法人税法五七条(青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し)の規定により、昭和五七年一〇月期の所得金額の計算上、損金の額に算入される繰越欠損金額は、次表の「〈4〉合計」欄のとおり、七二三二万四六一二円である。

そこで、被告は、右金額を所得金額から減算した

〈省略〉

(12) 減算計 一億二三六〇万二三八七円

右(8)ないし(11)の合計額である。

(13) 所得金額 一四五万七四九八円

(2)の修正申告に係る所得金額〇円に(7)の加算計一億二五〇五万九八八五円を加算し、それから(12)の減算計一億二三六〇万二三八七円を減算したものである。

2  昭和五八年一〇月期分の所得金額について

(一) 原告の当期における所得金額は、次表のとおり一八九九万三三二〇円である。

〈省略〉

(二) 右表の各項目の内容は、次のとおりである。

(1) 確定申告書に係る所得金額 〇円

原告が被告に提出した昭和五八年一〇月期の法人税確定申告書に記載されている所得金額である。

(2) 修正申告書に係る所得金額 〇円

原告が被告に提出した昭和五八年一〇月期の法人税修正申告書に記載されている所得金額である。

(3) 売上原価の額 四〇〇五万三〇〇〇円

原告が昭和五八年一〇月期の確定申告書の添付書類である損益計算書において、売上原価の額に算入した期首商品棚卸高の金額には、事実を仮装して経理したところに基づく過大計上額四〇〇五万三〇〇〇円が含まれていた。

そこで、被告は、前記1、(3)と同様な理由により、右過大計上額四〇〇五万三〇〇〇円の損金算入を否認し、これを所得金額に加算した。

(4) 繰越欠損金額の控除額 一九〇二万七七二〇円

原告の繰越欠損金は、すべて昭和五七年一〇月期の所得金額の計算において、損金の額に算入し、控除ずみである。

したがつて、原告が昭和五八年一〇月期の修正申告書において控除した繰越欠損金額の控除額一九〇二万七七二〇円を、所得金額に加算した。

(5) 加算計 五九〇八万七二〇円

右(3)及び(4)の合計額である。

(6) 売上原価の額 三九九九万九九八〇円

原告が昭和五八年一〇月期の確定申告書の添付書類である損益計算書において売上原価に計上した期末商品棚卸高の金額には、事実を仮装して経理したところに基づく過大計上額三九九九万九九八〇円が含まれていた。

そこで、被告は、前記1(二)(8)と同様の理由により右過大計上額三九九九万九九八〇円を売上原価の額として損金の額に算入し、所得金額から減算した。

(7) 事業税の損金算入額 八万七四二〇円

昭和五七年一〇月期の更正処分額に見合う事業税八万七四二〇円を、所得金額から減算した。

(8) 減算計 四〇〇八万七四〇〇円

右(6)及び(7)の合計額である。

(9) 所得金額 一八九九万三三二〇円

(2)の修正申告に係る所得金額〇円に(5)の加算計五九〇八万七二〇円を加算し、それから(8)の減算計四〇〇八万七四〇〇円を減算したものである。

3  本件各更正処分の適法性について

原告の昭和五七年一〇月期の所得金額は一四五万七四九八円であり、また昭和五八年一〇月期のそれは一八九九万三三二〇円であるところ、本件各更正処分に係る所得金額はいずれの期においてもこれと同額であるので、本件各更正処分は適法である。

4  本件調査の経緯などについて

(一) 被告所部係官瀬在佳尚及び中村徳男(以下「被告係官」という。)は、昭和五九年八月六日から同月九日まで原告の所在地へ臨場し、昭和五七年一〇月期及び昭和五八年一〇期の法人税調査(以下「本件調査」という。)をしたところ、原告従業員らから、原告の申告に係る損益計算書の商品棚卸高の金額には、事実を仮装して経理したところに基づく過大計上額が含まれている旨の申出があつた。

(二) しかし、原告従業員らから、昭和五四年度一〇月期の資料の提示がなく、また、同期以降についても、原告申出に係る仮装経理に基づく過大計上の内容と、その説明のため提出された資料等が一致せず、被告は昭和五四年一〇月期分から在庫が過大計上されていることを確認することができなかつた。

四  原告・認否及び反論

1  抗弁1(一)及び(二)の事実のうち、各(11)ないし各(13)を否認し、その余は認める。

2  同2(一)及び(二)の事実のうち、各(7)ないし各(9)を否認し、その余は認める。

3  同3の主張は争う。ただし、本件各更正処分に関する金額の計算関係については争わない。

(一)  同4(一)の事実は認める。

(二)  同4(二)の事実は否認する。

原告は、本件調査において、被告係官に対して、昭和五四年一〇月期分から在庫が過大計上されていることを証明する資料として同期以降の各年度の総勘定元帳、試算表及び実地棚卸表を提出して減額更正を求めた。

(三)  被告は、税負担の適正公平のため、国税通則法二四条により更正権を付与されており、原告は金額及び理由を明らかにし、かつ疎明資料を提出して職権の発動としての減額の更正処分を求めたのであるから、被告はこれに誠実に対処しなければならず、これを怠つた被告は、裁量権の範囲を逸脱しており、原告からの職権発動の要請を無視してなされた本件各更正処分は違法である。

四  昭和五四年一〇月期の過大在庫について被告が減額更正を行つていたならば、昭和五七年一〇月期及び昭和五八年一〇月期の原告の所得金額は別紙二のとおりいずれも零円となり、本件各更正処分において認定された所得金額を下まわる。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の証書目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一1  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

2  抗弁1(一)及び(二)の各(11)ないし各(13)並びに同2(一)及び(二)の各(7)ないし各(9)を除き、抗弁1及び2の事実は当事者間に争いがなく、右争いのある部分は、抗弁1(二)(11)の順号〈1〉昭和五四年一〇月期欠損金額欄を原告が否認したことにより計算上影響を受ける昭和五七年一〇月期の繰越欠損金額の当期控除額並びにこの金額により計算上影響を受ける部分であり、昭和五四年一〇月期における欠損金額は同期における過大在庫の計上の有無が係わつている。

原告は、本件調査において、原告の昭和五四年一〇月期からの仮装経理(在庫の過大計上)を被告係官は確認し得たのであるから、被告は減額更正をなすべきであり、減額更正された場合の金額を基に昭和五七年一〇月期及び昭和五八年一〇月期の法人税を定めるべきであるから、減額更正をなさずにした本件各更正処分は違法である旨主張する。

二  そこで、本件調査において、被告係官が原告の昭和五四年一〇月期からの仮装経理を確認することができたか否かについて検討する。

1  原告は、本件調査において、被告は昭和五四年一〇月期からの在庫の過大計上を確認できた旨主張し、この主張に副う、原告は被告係官に対して昭和五四年一〇月期以降の各年度の試算表及び在庫推移表を提出した旨の証人堀内幸久の証言部分が存する。

しかし、右証言を裏付ける証拠はなく、また、右証言に対しては、原告従業員から昭和五四年一〇月期の試算表等の提出は受けていない旨の証人中村徳男の証言が存するほか、次に述べるとおり原告が本件調査において被告係官に対し提出する資料が昭和五四年一〇月期からのものでなければならない理由を窺うことができないことに照らし、右証言部分は、採用することはできない。

すなわち、昭和五四年一〇月期からの在庫の過大計上が始まつたことを知るためには昭和五二年一一月一日から昭和五三年一〇月三一日までの事業年度(以下「昭和五三年一〇月期」という。)において過大在庫の計上がなされていなかつたことを確認することが必要であること(弁論の全趣旨によれば本件調査において昭和五三年一〇月期以前の試算表等の資料が原告から被告係官に対し提出されていないことが認められ、この認定に反する証拠はない。)、及び証人中村徳男の証言によれば、原告従業員堀内幸久は本件調査において、過大在庫の計上を昭和五三年一〇月期から始めた旨述べていたことが認められ、これを覆すに足りる証拠がないこと(証人堀内幸久も本件調査において昭和五三年くらいから始めた旨述べたかもしれない旨証言している。)。

したがつて、本件調査において、被告は仮装経理が昭和五四年一〇月期の在庫の過大計上を確認し得たと認めることはできず、被告が減額更正をすべきであつたとの原告の主張はその前提を欠き採用することができない。

2  なお、原告が昭和五四年一〇月期に在庫の過大計上をしていたことは当事者間に争いがないが、原告が昭和五三年一〇月期には在庫の過大計上がなかつたことを示す証拠として提出した甲第三及び第四号証によつては、これを認めることはできない。

(一)  すなわち、成立に争いのない甲第四ないし第六、第八及び第一〇号証、証人堀内幸久の証言により成立を認める甲第三号証並びに同証言によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 原告が直間比率と称するものの額は、昭和五五年一一月一日から昭和五七年一一月までは一二七万円ないし二五五万円であるのに対し、昭和五三年一〇月期におけるそれは、九四五万二六七四円であること

(2) 昭和五三年一〇月期の在庫には右九五万二六七四円のほか空調Tの社外在庫欄の三五九万四〇〇〇円が加えられて、昭和五三年一一月(すなわち次期の期首)の試算表の借方前月残高商品欄の金額と一致すること

(3) 昭和五三年一〇月期以外の期の在庫推移表の空調Tの社外在庫欄には記入がなされていないこと(右三五九万四〇〇〇円がいかなる趣旨の金額であるのかを明らかにする証拠はない。)

(4) 昭和五四年一〇月期の在庫推移表の前年同月欄(すなわち昭和五三年一〇月期と同様の金額が記入されているべき欄)の空調Tの社外在庫欄には三五九万四〇〇〇円の記入がないこと

(二)  以上の事実によれば、昭和五四年一〇月期の期首の残高商品欄には他年度とは金額をきわめて異にする原告が直間比率と称する金額あるいは趣旨不明の金額が加算されて計上されているということができ、右計上が在庫の過大計上による仮装経理であるとの疑いを払拭することはできないから、本件訴訟においても、過大在庫の計上が始まつたのが昭和五四年一〇月期からであることを確認することはできない。

3  弁論の全趣旨によれば、被告は本件調査を基に本件各更正処分をしたことが認められ、これに反する証拠はなく、したがつて本件各更正処分を行う際、昭和五四年一〇月期から原告が在庫の過大計上をしたことを被告は確認することができたとはいえないのであるから、別紙二記載のとおり減額更正をするべきであつたとの原告の主張を採用することはできない。そして、右主張の減額更正がなされないまま本件各更正処分がなされたことを除くと、本件各更正処分については争いがないから、本件各更正処分は適法である。

三  よつて、原告の本件訴訟はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山崎健二 裁判官 辻次郎 裁判官 原道子)

別紙一

自 昭和五六・一一・一 至 昭和五七・一〇・三一 までの事業年度分

〈省略〉

自 昭和五七・一一・一 至 昭和五八・一〇・三一 までの事業年度分

〈省略〉

別紙二

昭和54年10月期の過大在庫の減額更正が認められた場合の所得金額

〈省略〉

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